はじめに
最近は燻製品を作るのが大流行である。アウトドアブームにのってレジャーとして手作り燻製品を楽しんでいらっしゃる方も多いだろう。生徒たちも興味があるらしく、燻製品の製造を課題研究のテーマとして取り上げる生徒もいる。
この、「燻製」というもの、実際につくってみるまでは何となくメンドウでやっかいそうであるが、取り立ててすることのない休日などに、チャレンジされてみてはどうだろうか。朝から作業にはいると、夕方には手作り燻製でビールを一杯という誠に優雅な生活を楽しむことができる。多忙なことでは日本一と言われるみなさま、しばし校務を忘れてみては?
手作り燻製は、仕事一辺倒のオトーサンの家庭での地位を向上させ、奥様やお子さま(古女房やガキ)の称賛をきっと集めるだろう。また、できた燻製を食しながら、つれづれにウンチクを披露すれば「オトーサンもなかなか大してすごい」ということになって家庭円満。家内安全
燻製の雑学編
燻製の誕生
煙
人類が「火」と出会ったのが250万年前、その時から人間は「加熱して食べる」ということを行ってきた。現在の食生活で加熱と無縁な食品は少ない。生ものを「焼いて」食べることは人間の大いなる知恵なのだ。(煮て食べるということは土器の発明まで待たねばならないのでずいぶん高級な行為なのである) 250万年前、ヨーロッパ東部の森の中。火を使いこなすようになった一団がいた。狩りがうまくいった日、家族一族は洞穴の中で火を囲みあれこれと語り合っただろう。あまった肉は洞穴の壁に吊しておいたに違いない。夜も更け、人は眠りに落ちた。薪はいつしか消え、煙だけがやんわりと吊した肉を包み込んだ。
塩
ヨーロッパには岩塩が露出しているところがある。250万年前の人間も動物もそのことをよく知っていて、ときどき塩をなめるためにそこへ出かけていた。そそっかしい原人はある日、肉をその塩分を含んだ土の中に落としてしまった。数日後その肉を探し出し食してみたが塩辛くて食べられたものじゃない。仕方がないので、洞穴の壁に吊しておいた。
壁に吊したその肉、なかなか腐らない。特に、塩辛くなったものは腐らない。それに何とも甘くいい匂いがする。(当時のヨーロッパは、いまよりも温暖でブナの原生林が広がっていた。薪も当然そういった木を使っただろう。燻製にはブナやナラなど広葉樹が不可欠だ)食べてみると、生肉や、単に焼いただけの肉と違う奥深い味わいがある。彼はこの食べ物に「燻製」と名づけた。いまから250万年まえの話である。
香辛料
ヨーロッパの冬はたいへん厳しい。作物は全く育たない。中世、冬の食料と言えば、干し肉、塩漬け肉が中心となった。あとは、すっぱいピクルス程度か。当時の農家は豚を飼っていた。秋の終わり豚が丸々と太り脂が十分にのった頃、村々を屠殺解体技術を持った職人が訪れる。一冬分の精肉と塩漬け肉などの加工を行うのだ。これらは貴重な保存食となる。豚は、蹄と目玉以外はすべて食される。しかしこの加工肉は春になって気温が上昇してくると、徐々に腐敗してくる。悪臭を我慢しながらも人々は食べざるを得なかった。
この悪臭のある肉をおいしく食べるため、香辛料は欠かせないものだった。しかし香辛料を使うのは一部王侯貴族に限られていた。当時の香辛料は大変貴重品で同じ重さの金よりも価値があったという。香辛料の産地はモルッカ諸島(インドネシア)。香辛料は、マレー、インド、イラン、トルコ、地中海を経てヨーロッパに運ばれてきたのである。当時、中近東から地中海にかけてはオスマントルコが支配していた。オスマントルコは領内を通過する物資に法外な通行税をかけ、香辛料に関わる利権を独り占めしていた。
ポルトガル、スペインはこの不合理を海に向けて解消した。バスコダガマは南へ針路をとり、コロンブスは西へとった。そして喜望峰と新大陸を発見したのだ。そそっかしいコロンブスは死ぬまでここをインドと信じていて、横暴にも「西インド」と名付け、現在も住人は迷惑している。そして、1519年、マゼランは大船団を組んでアメリカ大陸を南に回り、太平洋を横断してフィリピンの島に着いた。彼はここで久しぶりに女性を見て欲情し、ちょっかいを出して現地人に殺された。全く情けない。マゼランの部下エルカーノはこの島を子細に観察し、船に乗せてきた奴隷が現地人の言葉を解することを知り、この奴隷が地球を1周してきたことを知った。フィリピンとモルッカ諸島はほど近い。 出航から3年後、エルカーノは今はもうたった1隻になって、マストも折れた船で帰り着いた。持ち帰った香辛料でエルカーノは巨額の富と名声を得たという。
このころからスペインやポルトガルは海運貿易で国力をつけイギリスの無敵艦隊に破れるまでわが世の春を謳歌したのである。
こうして、肉加工に香辛料がふんだんに使われるようになって現在の燻製品の原型ができあがったのである。
手作り編
注意
手作り燻製は腐敗の危険があるので暑い時期をさけること。 準備物 燻煙箱(スモーカー)
燻煙箱は自作が可能。石油缶の上下をくり抜いてガムテープでつないだら完成。図のように加工すれば更に良し。
燻煙材(燻煙チップ)
広葉樹のおがくず(ブナ、サクラなど)もみがらでも良い。また、チップに砂糖を少し混ぜておくと甘い香りがする。市販のスモークチップブリックは便利で使いよいが高価。針葉樹はぜったいに使ってはいけない。とても食べられたものにならない。野山に行って山桜などの枯れ木を拾ってきてナタで削ればよい。
ベーコン
原料
豚バラ肉(塊)
塩(肉の4%)
砂糖(肉の1%)
胡椒など香辛料(お好み)
作り方
バラ肉の表面の脂肪は1mmぐらいに削いでおき、塩と砂糖と香辛料を手で肉に擦り込む。塩は理想は岩塩、しかし手に入りにくいから荒塩で可。精製塩は避けたい。これは、塩の中に含まれる不純物の硝酸カリなどに発色作用があるからだ。 全部を一度に擦り込むのでは、浸透が悪いから2日おきに3分の1ずつ擦り込む。空気に触れないようにラップで巻いて冷蔵庫に保管する。
1週間後、冷蔵庫から取り出し、流水中で1時間ぐらい塩抜きをする。その後、スモーカーの中に炭火をおこすか、あるいは軒下などに吊し乾燥。炭火の代わりに電熱器でも良い。乾燥の目安としては色が、鮮やかになるまで。この乾燥をさぼるとうまくスモークできない。
燻煙は2時間から24時間お好みで。これで完成。ベーコンは湯煮しない。食べるときに焼くなり煮るなりして必ず加熱すること。
ソーセージ
原料
豚挽き肉
塩 (挽き肉の2%)
砂糖 (挽き肉の0.3%)
香辛料、調味料(お好み)
かたくり粉 (2%)
おろし玉ねぎ (2%)
氷 水 (10%)
豚腸、羊腸
作り方
すべての原料を手でこね合わせる。単に混ぜ合わせるのはダメ。粘りが出て、どうしようもない状態になるまでこねる。この時温度が上がらないように注意する。絶対に10℃以上にしてはダメ。こね終わったらホイップクリームの絞り袋をなどを利用して腸に詰める。
この作業はたいていぐちゃぐちゃになる。上手にやりたければ専用の充填器を使う。阿山町のモクモクに羊腸とセットで売っている。
そのあと、乾燥1時間、燻煙1時間。やりすぎると表面の腸が硬くなる。燻煙が終われば70℃の湯の中で1時間ほどボイルする。これも決して温度を上げすぎてはいけない。乾燥燻煙を省略してボイルすることも可。その場合「フレッシュソーセージ」となる。
温度を上げてはいけないのは挽き肉の結着性が損なわれボソボソのものになるからだ。
市販のハムソーセージは品質を改良するために添加物をたくさん使っている。これを我々は「毒物」あるいは「発ガン物質」と称する。
魚の燻製
原料
白身の魚(できれば自分で釣ってきたもの。サケ科の魚がBEST)
水 1リットル
食塩 150g
砂糖 30g
にんにく輪切り、香辛料
清酒、ワイン、みりん
作り方
魚は内臓やエラ、うろこを完璧にのぞいておく。特に背骨の近くの血合い肉は完全に除くこと。水を沸騰させ食塩、砂糖、香辛料を溶かす。冷えたら魚を入れ酒を適量そそぎ込む。このあたりおおざっぱにやってしまうとカッコいい。冷蔵庫で3日〜7日保管。
塩抜き10分、乾燥、燻煙をする。乾燥はやや高めの温度で「焼き枯らし」という感じでやや高めの温度でしっかり水分を取ると同時に熱を加える。東北地方のいろり端風に魚を焼く。燻煙は30分ぐらいか。燻煙が終われば完成。食塩の代わりにしょうゆを使うと和風味。
その他の燻製
チーズ かまぼこなども軽く燻煙すると、良い風味がつく。
終わりに
全く、教員という仕事は割に合わないことが多い。生徒はなかなかやる気を出さないし、教師同士では勝手ばっかりいっている。たまの日曜も、クラブや即売会などでボランティアを強いられる。(強いられるボランティアっていったいなんだ?)休みの日に出勤して家族からは愛想尽かされ、その日が法事だったりして、親戚から冷たい目で見られることもあるかもしれない。信州の方にはN田というすごい人間がいるそうだが、そんなことは俺にゃできん。 「帰宅する むかえてくれるは ポチばかり」とは本校のある教師の句である。そんなあなたも、たまには燻製でも手作りして家庭に目を向けよう。ただし、失敗してさらに悲惨な状態になっても責任は負いかねる。奮闘を期待する。
Fukuzawa Osamu
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